豆腐メンタルの人生やり直し記録

仕事もバイトも何も続かない豆腐メンタル野郎が何とか更生を目指します

研究室から逃げて大学中退してから自衛隊に行くことになった話⑨

hetareppe.hatenablog.com

 

 

指定のあった喫茶店に行くと、一番奥の席でこちらに手招きしている人を見つけた。

勢い余って自衛隊の広報担当に電話を掛けたら明日にでもお話しましょうかと言われ二つ返事で承諾したのだった。こういう時の行動力だけはなぜかあった。

「広報官のKです。よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

背丈は高くないもののガタイが良く、その割に物腰の低そうな様子でこちらに緊張感を持たせないような人だった。後に2曹という階級の現役自衛官であることを聞き驚いた。

 

 

席に着き、促されるままコーヒーを頼んだ。

「今22歳だっけ?何やってるの?学生さん?」

「あ、はい。えと、学生なんですけど、もう大学には行ってないというか、行けてなくて」

「え?でももうその歳だと卒業だよね」

「そうなんです。えと、ただ、いろいろあってあの、半年くらい通えてないんです」

K2曹は困惑したような目つきになった。

「そうか。それで大学はどうする。辞めて自衛隊に入りたいのかな」

勢いで応募して何も決めてなかったことを思い出した。

「わからないんです。でももう働かないとまずくて。大学は今はどうでもよくなっちゃってて」

酷く否定されそうな気がしてはっきりと言えなかったが、K2曹は思いの外あっさりとしていた。

「そうか。それで応募してきたんだね」

「は、はい」

最近の事情を誰かにはっきり伝えることなんてなかったからか、全体的に酷く口籠った受け答えをしてしまった。

「わかった。大学のことは追々考えるとしてまずは試験を受けて合格してから入隊するかどうかとか大学のことを考えればいいと思う」

「わかりました。ありがとうございます」

社会不適合の烙印を押されなかったことに安心した。

「じゃあ自衛隊のこと何も知らないと思うからいろいろ説明するね」

パンフレットを広げて自衛隊に関することを色々教えてくれた。

自衛隊の生活のこと。仕事のこと。

特に仕事については色々知らないことが多かった。

「皆常にきつい訓練をしているわけじゃないんですか」

自衛官に体力はもちろん必要だよ。でも四六時中、皆が皆走り回ったり筋トレしてるなんてことはないよ」

自衛官と言っても一様に皆が同じことをしているわけではないそうだ。

戦車を動かしている人もいれば、航空機の整備をしている人もいる。はたまた総務人事等、その他事務作業を1日の主な業務としている自衛官だっている。

「もちろんプログラムを作っている自衛官もいる。だから民間とほとんど変わらないような仕事をしている人だってたくさんいるよ。そういうスキルがあれば転職にも役立つしね」

「そうなんですね。全然知らなかったです」

「体力は必要だから訓練もあったりするし、年に一度ある体力テストの基準を満たすために日頃から体力錬成は必要だけどね」

自衛隊は大変な訓練を常にしてきついというなんとなくのイメージを持っている人が多いのだろう。慣れた様子で説明してくれた。

何でも優しく答えてくれることもあり、ついつい余分なことまで聞いてしまった。

寝るときは他の人と同じ部屋なのか。外で暮らすことはできるのか。興味がより湧いて他にも色々と聞いてしまった。

一通り聞きたいことも聞き一段落したところでK2曹が改まって聞いてきた。

「それで陸海空どこが希望なの?」

「一応陸です」

自衛隊と言えば陸のあの緑の迷彩服を着た人たちを思い浮かべる人が多いだろう。

例に洩れず、僕もそれくらいの知識しかなかったためなんとなくで一番有名な陸上自衛隊に行こうとしていた。

「ううん。なるほど」

何か言いたげだったので次の一言を待った。

「僕はね空自をおすすめしてるよ」

「え、なんでですか」

その後いろいろ航空自衛隊を勧める理由を教えてくれたが、結局K2曹が航空自衛隊自衛官だったからなのかと後で思った。

K2曹の口車に乗せられた僕は空自を希望することに決めた。その場で願書を書いて試験を待つこととなった。

帰路について少しは気が晴れているように感じた。とにかく現状をなんとかしないといけないと思っていた僕にとっては、自衛隊だろうが何であろうが、この一歩踏み出せたのは大きかった。

 

試験日はあっという間にやってきて、筆記も面接も難なく通ってしまった。

約一ヶ月後に入隊予定の試験をやっているのだ。間口が広いに決まっている。面接後、ダメだったかもしれないと落ち込んでいたが、会話さえできれば皆合格くらいだったのかもしれないと思った。

 

合格の通知をK2曹からもらい安心していたのも束の間、数日後に入隊の案内が届いて落ち着いてはいられなくなった。

「俺は本当に軍隊に入るのか」

 

漠然とした不安が広がっていた。