研究室から逃げて大学中退してから自衛隊に行くことになった話⑤-2
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研究室に行かなくなってもう2週間くらいが経っていた。
あれからずっとベッドの上でボーッとするか、スマホをいじるかして過ごしていたからか身体がすごく怠かった。
親には研究が落ち着いたからしばらく休んでいると嘘をついていたが、そろそろ怪しまれてもおかしくないと思い始めていた。
とりあえず何か休む理由が欲しくて、近くにあるメンタルクリニックに行ってみることにした。
何か診断されれば大学を休む正当な理由になる。
そもそも、自分は精神的な病気を患っているのかもしれないと感じ始めていたところでもあった。
精神科に行く価値はある。そう思っていた。
ただ、初めての精神科ということでかなり緊張しており、なかなか重い腰が上がらなかった。
結局、病院に行ったのは思い立ってから一週間後のことだった。
「今日はどうされましたか」
優しそうな白髪の医師に研究室の出来事、考え方、辛いことを全部話した。
全て聞いた上でその医師は深く考える様子でしばらく唸っていた。
鬱とでも言われるんだろうか。鬱になることは全くいいことではないのに、何故か期待してしまっている自分がいた。
しかし、医師の言葉は呆気ないものだった。
「うーん、ちょっと考えすぎかもね。疲れてるだけだよ」
耳を疑った。
僕はただの健康体で何も悪いところはない。
ただちょっと色々重なりすぎて落ち込んでいるだけのようであった。
何かしら診断が下されると考えていた僕は絶望し、この医者は面倒くさくて適当なことを言っているだけではないかと思った。
「なるほど、そういうことですか」
あくまで冷静に受け止めているように見せたが、内心沸々と湧き上がる理不尽な怒りを抑えるので必死だった。
特に食い下がることもできなかったため、その後のやり取りは5分もかからず終わってしまった。
睡眠は取れているのに、とりあえずよく眠れるようにと睡眠導入剤が処方された。
「無駄足だったな」
健康そのものと診断されたのに、帰りの足取りは重かった。
でもよく考えてみたら当たり前だった。
食欲も湧くし、睡眠の質も悪くない。
精神的な病である訳がない。
ただただ嫌なことから逃げただけ、恥をかきたくないだけ。プライドを傷つけられたくないだけ。
わかったことは、自分は打たれ弱く精神的に幼稚で未熟だということだ。
情けなくて辛かった。
家に着き、どうすればいいかひたすら考えた。
しかし、考えているようで実は今までにあった辛いことを反芻しているだけだった。
研究室に戻ろうという気持ちにもなれなかった。
1ヶ月も連絡を断って、無断欠席を繰り返した僕が今更戻る居場所などない、と考えていた。
何よりそのくらいで辛くてサボったやつと皆に思われるのが恥ずかしいし、惨めだと思った。
順調にいけばもうあと半年で卒業だった。
卒業研究を終わらせて論文を提出しないことには卒業できない。
でも研究室に行く気もない。
「どうしよう」
絶望感しかなかった。