↑前の話
結局研究室には行かず部屋でボーっとする毎日を送っていた。
そして、ついに研究室から家に電話があったみたいだ。
両親からそのことを伝えられ、布団の中で震えることしかできなかった。
いろいろ問い詰められたが、ふさぎこんで何も答えようとしなかった。
普通なら僕がしっかり説明するまで親は食い下がらなかったはずだが、そんなことにもならなかった。
ある時からおかんが家に帰ってこなくなったからだ。
初めのほうは帰るのが遅くなってきたくらいだった。
それが段々と家に帰ってこない日が出てきて、最終的にはたまに着替えを取りに帰ってくるぐらいまでになってしまっていた。
原因はわかっていた。
親父が抱えている金銭的な問題だ。
僕が大学生、妹も大学生で一番お金のかかるときに親父は仕事を独立したのだった。
独立後、サラリーマン時代より収入が急激に下がり、家計は苦しかったようだ。
元々、酒たばこギャンブルをするため金遣いが荒かった親父。借金もあった。
お金のことで度々揉めていることがあったが、親父は亭主関白気味でもあった。
そのため、いつものように喧嘩が始まり、親父がおかんを怒鳴りつけ、おかんが泣いている姿を小さい頃から度々見ていた。
そんなわけでちょくちょく喧嘩をしている二人だったが、最近はそれに拍車がかかっていた。
独立するにしてもなぜこの一番お金のかかる時期なのか。家族に迷惑をかけておきながら、なぜそこまで傲慢な態度で私に接することができるのか。
正社員で夜勤もしながら働くおかんより収入が低いのに家事もしない。
そして今までの親父の行動の積み重ね。
おかんは限界だったんだと思う。
段々家でおかんを見ることがなくなっていった。
そして、僕の大学の問題も有耶無耶になっていた。
そんな状況が一カ月くらい続いた後、おかんから連絡があった。
「家を出ようと思ってる」
「もう家ならほぼ出とるやん」
心配な気持ちしかなかったのに、気遣うのが恥ずかしくて茶化してしまった。
「そうじゃなくて、もうそっちには一切帰らない」
何かが急激に壊れていっているような感覚になった。
聞きたいことはたくさんあったが、その気持ちを抑えようとした。
でも無理だった。
「具体的にどうするの。ていうか今どこにおるの。」
「アパートを借りるつもり」
どこにいるかは教えてくれなかった。
そして、やっぱり完全にこの家からは出ていくんだ。
思考を巡らせながらも一拍置いて一番聞きたかったことを聞いた。
「離婚するの?」
答えはわかっていたのに動悸が止まらなかった。
「そのつもり」
その瞬間、何かが終わったような気持ちになった。
両親の喧嘩はあれど、幸せな瞬間もあった。楽しいひと時を過ごすこともあった。
その関係が終わって、家族はバラバラになってしまうんだ。
そう考えると辛かった。
それでもおかんを責める理由など何一つなかった。
今まで一番辛い思いをしてきたのはおかんだ。それはわかっていた。
精一杯応援しようと思った。
「手伝うから何でも言って」
それからしばらくして、部屋を探し始めた。
僕には時間だけはあった。
一人で部屋を見に行ったり、アパートの周りを散歩がてら見回ったりして時間を潰した。
それまでのように家で何もせずに今後の不安だけで脳内が埋め尽くされるのは気が気でなかった。
そしてついに部屋が決まり、僕もそちらについていくことにした。
大学が近くなるということで妹もついてきた。
結局親父を残して3人とも家を出てきてしまった。
大学のことについてまた何か言ってくるであろう父から離れ、母親もあまりそのことに関して言ってくることはなくなった。
もう誰も大学に戻るよう説得するものはいない。
気付けば12月になっていた。